「寸止め」を考える
当ブログでは「止め」と称している、斬りかかった際に振り下ろすのではなく、安全に立ち回りを行うために刀を捌かれる位置で止める基本技術だ。
どこで刀を止めるか。これは道場や教室によって教え方も様々だと思うが、「なぜ止める」かを理解する必要がある。怪我をしない・させないためというのが大前提だ。
ではその他には何があるか。当ブログで「寸止め」ではなく「止め」と言っているのは、全てにおいて「寸」ではないからだ。
「止め」ない場合は、避け、追っ払い、空振り、斬るなど、基本的にはどこにも当たらない場合のみだ。
刀を「止め」た時、そこには、「受け」「跳ね上げ」といった捌きが前提となる。「当て斬り」については、後で語ろう。
この捌き方によって「止め」は一辺倒ではなく様々な角度や場所が存在する。その刀を止めた時の切っ先の位置を当ブログでは「点」と称している。
この「点」が止めの最重要キーワードだ。
「止め」には「捌き」が必ず付いて回る。捌きがない「止め」は斬る気がない手。手付の際に「斬らないけど、観念しなさい」「お互いに刀を向け合わせて両者動けない」のような意味合いで使用される突き付ける手くらいしかない。
では捌きによって、「点」がいかに変わるのか。
下記のリンクの動画を見て、語っていこう。
https://www.youtube.com/watch?v=8kTHJgwFS0Y
この動画(受け)については、各団体や教室によって異なると思う。私自身の持論もこの動画とは異なるが、理屈は良いと思うので、「受け」の引き出しにすると良いと思う。
今回は「止め」についてなので、その切り口で当動画を見ながら確認しよう。
【動画5分40秒から】
初手の「擦り上げ」だと思うが絡みが刀を下しているので、刀をいなしただけという事かもしれないが、今回はそこではなく。刀が触れた「点」についてだ。
頭より少し上、顔より3、40センチ前方という所がこの捌きでは「点」となっている。
絡みは「止め」ていないではないか。と思う方がいるかもしれないが、これも「止め」だ。
絡みは「点」を目指し刀を振る。刀が触れる「点」で刀の軌道を逸らす。
殺陣は演技だ、刀を打ち合ってリアルなリアクションをするのではなく、お互いがこの「点」めがけて刀を振り、刀が触れたらお互いの「手」に合った演技をする。この手が「跳ね上げ」だったとするなら、絡みは刀が触れた所から刀を上に跳ねられた動作や芝居をする。どの程度の力で跳ね上げられたかは、リアルにするのではなく、絡みがどう芝居するかによって、その「力」を表現として見せるのだ。
この動画では絡みの刀は軌道が右下へ逸れて行く芝居をしている事になる。
3手目の擦り流し。顔の前方3、40センチというところか。「擦り流し」は刀が触れずとも良い手なので、この動画では触れていない。もし触れたのなら1手目と同様に絡みの刀の軌道を変えなければならない。なので、これも絡みは「止め」を意識しなければならない。
次に「八相受け」とテロップが入った「受け」3回。顔の横20センチくらいだろうか。これは分かりやすく「止め」ている。
次に「巻き落とし」とテロップが入った「落とし」2回。正眼の刀の高さで切っ先3寸から4寸くらいの位置だろうか、もちろんこれも「止め」だ。「点」を目がけて突き、刀が触れれば落とされた芝居をする。
そして3手目の横面、腹のよこ30センチくらいだろうか。刀を巻きながら弾かれる。刀が触れた時点で画面奥に体が流れる芝居だ。これも「止め」である。
「止め」とは、相手が欲しい所で刀を止めることだ。だから同じ手でも10人いれば10通りの「止め」の「点」があるし、同じ手でも芝居によって「点」が異なる事も当たり前に存在する。いかに相手に思いやりのある「止め」を打ってあげるか。相手をよく見る必要がある。
この動画の芯は、絡みに対して「ここに欲しい」という隙をしっかり見せている。絡みはこの隙を逃さないように見ておかなければならない。
これまでの「点」を上記では「くらい」と表現したのは、人によって違うからに他ならない。相手の欲しい「点」が分かれば、「くらい」とあやふやにぜず米粒ほどの「点」という意識で「止め」るところまで、刀を振って欲しい。
最後に「当て斬り」だ。
【動画6分6秒から】
2回「当て斬り」をしている。「止め」る所は、絡みの胸。次は首。
「止め」をしっかり出来る様になれば、この当て斬りをやってみても良いかと思う。
「ガツン」と当てて止まるのではなく、相手が当たったと感じないくらい繊細に触れたところで「止め」る。
この動画の「当て斬り」は殺陣としての「当て斬り」なので、当ブログでは有難い素材だったが、「当て斬り」というとラバー刀を使い本当に当てる方をイメージする人がいるかもしれない。その斬り方については、当ブログでは非推奨だ。当ブログの殺陣の「定義」を参照して欲しい。
「止め」への意識が高まれば、相手も立ち回りしやすく、観客にも意図が伝わる殺陣ができる。怪我への意識だけでは、まだまだなのだ。いかに演技として昇華させることができるか考えるべきだ。
「止め」について「点」をキーワードに語ってきたが、技術面で大切な事がもう一つある。
それはタイミングだ。
毎回、刀が止まってから捌かれたのでは、その度に殺陣が一瞬止まることになる。「止め」の側を止まったまま待たせる事がないように、捌く側も「点」を目指し、絶妙なタイミングで捌く技術が必要だ。「点」も「タイミング」も練習を重ねなければ獲得しえない技術だ。
また「止め」を意識するあまり、「斬ろうとする芝居」が疎かになる場合がある。止める前から止める前提で体が動いている、芝居をしてしまう、という事だ。あくまでも切り殺そうとしている芝居は、自分の命が尽きるまで絶やしてはいけない一貫した芝居だ。切られようとして斬りかかるのではなく、斬り殺そうとした結果、切られてしまったという芝居をしなければならない。
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