独断分析 vol.5

動画その8
https://www.youtube.com/watch?v=GpIojGXvGvY


分類:殺陣
2種類の跳ね上げ抜け胴を紹介している。
まずは「基本の足で跳ね上げ抜き胴」という事なので、そちらから見て行く。

「基本の足」というところにまず疑問符が付く。
一手目の真向は「どこ」を切りに来ているのだろうか?

「芯が一歩前に出て、跳ね上げる」ところに切りに来るのならば、芯が動かなければ、絡みの真向は空振りに終わる。この理屈が理解できるかどうかで、殺陣のリアリティーは天と地ほどの差が出てくる。
殺陣は、切るところは「どこか」を明確にする事が基礎中の基礎だ。怪我をしない・させない事が最優先という理由もあるが、表現としても重要な理由がある。

この「どこか」とは、「頭あたり」といったあやふやな指定ではなく、米粒ほどの「点」として明確な目標を立てることだ。

その「点」を基準に、お互いが刀を合わせにいくのだ。殺陣は常に木刀で行うのではなく、本番では竹光が主流だ。この「点」に相違があると、刀身に不要な負荷がかかり、竹光は簡単に折れてしまう。というのが理由の1つだ。

もう1つの理由は、空振りする刀に対し「あえて跳ね上げに行く」という嘘をつく必要はないという点だ。
殺陣は演技である以上、嘘の塊なのだが、嘘をつく必要のない所まで、嘘で固める必要はない。可能な限りリアルも追及すべきなのだ。

以上の理由を踏まえ、では今回(基本)の一手目の真向は「どこ」に打てばよいか。
切っ先が芯の額の正面斜め上、前方20㎝くらいが妥当かと判断する。
「点」と言いながら「くらい」って何だ!と思っていただくと、とてもありがたい。
「くらい」と表現したのは、実際に捌きやすい「点」は、演者によって異なるのが常なのだ。なぜなら、体格や腕の長さ、歩幅などは人それぞれだからだ。なので、芯が「どこ」に打って来てほしいか、その都度確認する事がベストだ。

「点」の相違を解消できれば、さぁ真向を打とうではないか。
この時、芯の足運びはどうなるか?

想像力のある人には、正解が見えたのではないか。いや、感じ取ってほしい。
芯は後ろに一歩さがり、跳ね上げる。
そうすると先程の「点」に綺麗に合わせに行けると実感していただけると思う。
安全でリアルな跳ね上げの完成だ。

そしてこの動作は、観客にも明確に表現が伝わる。攻める人と攻められる人が誰にでも分かるのだ。普通の芝居でいうと「話す人」と「聞く人」だ。
殺陣における動作では、攻める(話す)人は前に出て、受ける(聞く)人は後ろへさがる事が基本となる。
この動作の表現面での利点は「危機感」だ。殺し合いなのに、全然「ヒヤッ」としない戦いに何の意味があるだろうか。
「危なかったけど助かった」「危機的状況からの大逆転」というドラマを作らずして殺し合いの芝居が成立するとは思えない。

また殺陣を続けるにあたって、受け側(聞く人)が、前に出て捌く癖がついてしまうと「刀を迎えに行ってしまう」という初心者あるあるから抜け出せなくなる。「待ち芝居」が出来なくなるという最大の問題が浮上するのだ。絡みを待てない人はいつまで経っても「芯」は出来ないと断言する。

だが、この動画の様に、前に出て跳ね上げる場合もある。しかし、それは殺陣師が手付の際に色々な状況を考慮した上で「ここは前に出て捌こう」と判断するのだ。もちろんその際には「点」の位置も変える必要がある。

そして、いつでも前に出られては、立ち位置がずれて、立ち回りが終わる頃には殺陣師の想定した立ち位置から大きくズレてしまう。
よって役者が殺陣を行うにあたって、最低限のルールと考えてほしい。そして振りを渡してもらう際には、手はもちろん、立ち位置もしっかり見ておくべきだ。

この「真向を跳ね上げる」だけで、考える事はまだあるが長くなったので、ここまでにして次にいこう。

跳ね上げられた後の、切られる人の動きを見てみる。
ぱっと見る限り「ちゃんと切られてる」と思う方も少なくないと思うが、これが殺陣の質を落とす原因にもなる。

跳ね上げられたにも関わらず、腕以外は前に進んでいるのだ。跳ね上げられたリアクションをさぼっている。
原因は「送り足」「踏み込み足」等という足運びで、上段からの真向を一挙動で行った事にもあるが、そうなった最大の原因は、芯が脇構えから始めている事にある。
基本の動画なのだから焦って早くする必要はないし、早くやるより今後に役立つ方法で見せてほしい。そして両者が意識して稽古ができる両者のための組手を作るべきだ。
両者正眼から、もしくは芯が脇構え・絡みが上段から始めるべきだ。脇構えからだと芯はすぐに跳ね上げられるが、絡みは正眼から上段そして真向と行動が2倍となる。それが焦りとなり、ある種サボらざるを得ない心境となる可能性がある。
結果「足が動かない絡み」が完成する。
殺陣において「絡み」は「芯」の3倍動くつもりで殺陣を盛り上げる役に徹するべきなのだ。なのに基本から「足が動かない絡み」を作り上げては発展はない。
まずは、両者ともに1つの行動ずつ整理して出来る様な組手にして、ゆくゆく絡みがもっと動けるようになれば良いのだ。

次は絡みが、斬られる時に芯の右外側に足を出しているのだが、これは「どこ」を切りに行っているのだろうか?

殺陣においては芯の動きが優先なので、芯の動きを確認すると、芯は絡みの左外側へ抜き胴している。とすれば動画の状況は、絡みが「ただ切られに行っているだけ」なのだ。
本来「本気で殺しに行った結果、切られてしまった」という芝居にしないと何の意味もない。ここで絡みがすべきは、跳ね上げられた時の芯の立ち位置。つまりは、まっすぐ前に真向を振り下ろすことだ。芯は左外側へ移動するのだから、刀は当たらない。もっと言えば、芯が移動して、真向を振っても当たらない絶妙のタイミングに振り下ろすのだ。これが妥当な基本だと思う。

とはいえ、確かに動画のように切られる方法もある。しかしこれは、芯が間に合わない時などの一つの手段だ。

次の抜き胴の動画

「待ってその場で跳ね上げ、その場で抜き胴移動して斬る!」についてだ。

上記で指摘した「跳ね上げ」だが今回はどう見えただろうか?
今回は「その場で」なので、前には出てきていないが、体が前方へ伸びるのが見て分かる。
これが「迎えに行っている」という事だ。だた今回の迎えに行ってしまった原因は「絡み」にある。「点」の相違だ。芯からするとこの真向は少し遠かったのだ。
芯は「その場で」という縛りがあるのだから、絡みが正確な「点」に対して打ち込まなければ、その場で跳ね上げられるわけがない。が・・・
動画を見る限りは、迎えに行かずとも、刀は届く距離にあると私は判断する。
これが、演者それぞれの捌きやすい「点」の違いだ。この違和感を気にするかしないかで、殺陣の優劣がハッキリ分かれる。「点」については常に意識すべきだ。

そして今回は「当て切り」等という切り方での抜き胴だが、絡みは刀が胴に当たった時に頭を前後に2度揺らしている。これは既に切られた芝居をしているのだ。にも拘わらず、刀はしっかり上段に構えている。かなりアベコベな芝居をしている事になる。
刀が胴に当たった時には、まだ切れてはいない。という事は「頭の芝居」が間違っている。
セオリー的な芝居で言えば「ハッ!」として動けなくなる芝居。しっかり上段に構えて動かなかった腕の芝居の方が正解だ。

そして今回も、絡みは切られた時に右外側へ足を出している。殺陣に慣れて来ると大体の人が陥る現象だ。真っ直ぐ前に切りに行ってたのだから、まっすぐ足を出すべきだ。
この癖がついてしまうと、常に芯のいない安全な場所を切るという事態が起こる。誰もいない所を切るのではなく、斬りかかろうとしたときに相手が居た位置を目指して切るのだ。

基本組手だから、なおさらしっかりと、組手の意味を理解して実践して欲しい。


最後に、抜き胴した後、芯の刀が止まる所で、切っ先がビヨビヨ揺れる。刀が軽く見えるので、ピタっと止まる練習をすれば、殺陣の質があがる。
木刀で揺れるのなら、竹光だったら、もっと、ものすごく揺れてしまう。


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