「斬られ方」を考える
斬られ方の技術面での基本として、斬る側の刀の軌道に余分な部位や刀が無いようにする事だ。
分かりやすく例えると「抜き胴」で斬られるとした場合、斬られるのは「腹」だ。腹の前に腕があると、腕に刀が当たり怪我につながる。刀があった場合は刀が折れる可能性がある。
斬られる部位を他のもので邪魔する事がないように、刀の軌道のスペースを空けておかなければならない。
1対多での立ち回りの中で絡みが斬られた場合、芯・他の絡みを含めて立ち回りの邪魔にならない様に動く事。1対1の場合はどこで斬られて、どこで倒れようと誰の邪魔にもならないが、絡みが多いと、続く立ち回りの邪魔になる場合がある。
斬られた後は、邪魔にならない場所まで移動する。斬られた後の移動や芝居は、殺陣付けによって異なると思うが、自分が「はける」動線は事前に確認する事が必須だ。
この時、斬られた芝居・リアクションについても、斬られた場所でするのが良いか、邪魔にならない場所まで移動した後にするべきかを判断する。
演技としては、役柄に合うように役者が各々、自由に演技すれば良いが、上記の内容を基に演技を作る事だ。5万回斬られた男で有名な役者さんみたく、海老反りでカメラに自分の顔を見せるという妙技を見れば、いかに斬られた芝居は多種多様な表現があっても良いのだと思い知らされる。
斬られた時の声。もちろん無言で倒れる場合もあるが、人生が終わる最後の言葉だ。役柄の思いを命尽きるまで表現すべきだ。
また声については、立ち回りの中で、斬られた事が分かりづらいケースもあるが、声を出すことにより、「斬られた」という事が表現できる為、動きだけでは伝えにくい場合には声を出すべきだ。
殺陣は実際に刀を当てないため、斬った(刀が当たっている)ように見せなければならない。観客・カメラ側を意識して、斬っているように見せる立ち位置や技術が必要だ。カメラの場合は殺陣師が考慮して殺陣付けするため、さほど意識しなくても良いだろうが、舞台では違う。500席あるなら500個カメラがあるのと同じだ。殺陣師がいかに素晴らしくても、全ての斬る部分で刀が当たっているように見せるのは至難の業だ。ここで役者の出番となる。斬ったように見えない場面では、刀が通った後に、すかさず役者がその刀の軌道に入るという技術がある。刀が通る前にその位置に入れば大参事だが、刀が通った後なら問題ない。斬られ役の腕の見せ所だ。
下記のURLの動画を例に出す。
https://twitter.com/NatoriPro/status/1240180017545408512
最後から一手前の袈裟切りは、カメラからでは切れたように見えない。
この時絡みは斬られた後すかさず足を一歩前に出し、刀の軌道に入れば切れたように見せる表現が出来る。そして更に出した足をすぐに退き、抜き胴のスペースを作ると芯の動きに優しい絡みとなる。
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