「握り方」を考える
刀の握り方について語っていこう。
文字通りの刀の握り方は過去ログ「基本」を考えるの中の、刀の持ち方で語っているので、そちらを参照して欲しい。
その握った後の扱い方だ。
今回は、竹光を使用する事を前提に進めて行く。竹光以外の刀身の場合でも当てはまる事もあるため、ぜひ実践して欲しい内容だ。
結果から言うと「力強く握らない」だ。
殺陣は当然、戦いの場面であり、激しい動きが生じる。芝居にのめり込むと、自ずとチカラも入る。
稽古よりも本番の方が緊張もあるだろうし、アドレナリンが分泌されやすい状況下に置かれるため、結果的に強く握ってしまうという事もある。
戦いの本質的には、強く握るべきだろうと考えるのが自然だが、なぜ全く逆の行為をすべきなのかが論点だ。
「力強く握らない」と言うのはなぜか。それは技術的にも表現においても、殺陣においては様々なデメリットがあるからだ。
まず、刀を打ち合った場合、寸分違わず刀が合わされば問題ないが、殺陣において気持ちの良いくらいお互いの想定している所で刀が合わさる事は少ない。お互い動いているのだから、多少のズレがある場合がほとんどだ。
その際、力強く握っていると、打ち合った衝撃は逃げ場を失い、刀身にかなりの負荷がかかる。結果、刀身が傷つく。最悪折れてしまうし、折れた刀身が飛ぶのも危険だ。
この緩衝材としての役割を手首や指が担うのだ。
次に、刀の止まる位置で刀身が震える。力強く握ったまま、刀を振ると、振り終え時にビヨヨンと、切っ先が震えるのが確認できるだろう。これがジュラ刀なら震える事も無いが、竹光ではこれが顕著に見られる。
単純に刀身の重さが原因だ。刀身が軽い為に震えてしまう。という事は、観客にもその軽さが伝わってしまう。
ピタリと刀が止まる事により、刀身の重さを表現できる。
命をかるく絶ってしまうのか、しっかりとひとつの人生を終わらせてあげられるのかは、振り下ろした切っ先にかかっていると言っても過言では無いのだ。
この震えを抑制する方法のひとつとしては、振り終えた所で、手のチカラを抜く事だ。筋肉で刀を止めようとするのでは無く、振り終えた所であとは重力に任せるのだ。
もう一つの方法は、強く握るとは関係ないが、テクニックのひとつとして引き出しに入れておいて損は無いから、この機会に書いておく。
刀を振り終わった所から、刀身の延長線上に少し押し出す事だ。これは刃筋方向へのベクトルを刀身の先へ変える事により震えが治まるという理屈だ。
また余談だが、この震えが横揺れの場合、刃筋が寝ている。しっかり刃筋が立っていれば、震えても縦揺れとなるので、刃筋を立てて振れているか判断できる。
震えた際はついでに、どう揺れたか確認すれば、刀の振り方の改善に役立つ。
さて、次は動作・姿勢だ。強く握る事により、腕や肩にも力が入ってしまい、手首や肘、肩の関節がしなやかに動かなくなる。そして最悪は姿勢が悪くなる。時代劇の見せ方は、姿勢がベースにある。ここが崩れてしまうと、とても滑稽な立ち回りになりやすい。たとえ役柄が浪人であろうと、力が入った結果型破りな感じになるのと、演技として型破りを表現するのでは、役者として雲泥の差ではないだろうか。役者としては是が非でも後者を目指すべきだろう。また力を入れると必死感が出てしまい、強い役柄であっても弱く見えてしまう事が多い。強さを見せるに当たっては、力を入れず演技面での追及をすべきだ。
最後は、思考・判断力の低下だ。力を入れて殺陣をすると、必死な状態、興奮状態になり頭の回転が遅くなりやすい。
殺陣の最中に考える事は多岐に渡る。演技はもちろん、次の手、相手の動き、間合い、立ち位置など、一手一手で瞬発的な判断も必要となるため、冷静でいる事が最善だ。そのため必要以上に力を入れる事はデメリットの方が多くなってしまう。
以上の事から、刀は手からすっぽ抜けないようにさえ握っていれば十分だ。本気で力を入れるのではなく、力を入れている演技をする事だ。
道場や教室によっては、刀を振った時に、柄を絞るように手首を内側へ入れる、等と教えている所もあるようだが、これをすると力が入ってしまう場合が多い。力を入れずに、手首を内側へ返して、絞るような演技。と教えるべきだと私は思う。
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