「基本」を考える
殺陣を始めると、誰もがまず基本と言われて覚えるもの。刀の持ち方、構え方、振り方ではないだろうか。
この基本に疑問を投げかけてみる。
道場や教室で習う基本は、各所が独自の基本を持っていたりする。色んな動画を見ていると、先生・講師がもともと、剣道や居合、剣術にアクションなど、自身が培った知識や技術で教えるのだからもちろん、それが色濃く出てくるのは必然だ。
だからこそ、その基本は正解であって正解でない。では、文頭の3つについて、私の持論を述べてみよう。
刀の持ち方。
右手は人差し指が鍔に触れる程度の位置で、釣竿を握るように、指で包み込むように握る。力強く握らない。正眼の構えの時には、親指と人差し指の間の水掻きのような部分が鍔にぴったりくっつけるように握る事は無い。柄を垂直に握るのではなく、斜めに包むという表現の方が分かりやすいかも知れない。
左手は柄頭の位置に中指か薬指。小指(と薬指)までは、柄を握っていない状態で指は丸める。全ての指は広げず、柄を掴む。
刀の構え方(正眼)。
刀を持った状態で、左手が自身のヘソの高さでヘソから前方にこぶし2つ分空けた位置。切っ先は自身の首の高さ(相手がいる場合は、相手の首の高さ)。手首は絞らず、力を入れずに持つ。脇を閉めるでも無いし開けるでも無く、力を入れ無い状態だ。
両足はぴったり揃えず、少し開げて立つ。右足を一歩前に出し、腰を入れて少し落とす。その時に右爪先は真っ直ぐ前を向き、左爪先は20度〜30度はど左外側へ向く。腰・胸は真っ直ぐ前を向く。重心は腰で、両足に均等に体重が乗るように。腰から上は、姿勢を正し、猫背にならないように。顎を少し引くと、首から背骨にかけて、真っ直ぐになるような感覚を実感できる。肩に力は入れない。
刀の振り方(正眼から)。
振り上げ。
腰の高さを変えずに左足を一歩前に出すと同時に、刀を振り上げる。「振り上げる」と表現するのは「振りかぶる」と言うと、切っ先が自分の背後まで大きく振ってしまうからだ。振り上げ方は、まず切っ先から上へ立てるようにあげていく。一歩前に動く事により体も前へ出てくる。その体に沿うように腕を振り上げる。振り上げた位置は、左手が自分の額の正面45度上にこぶし1.5個分空けた位置。切っ先は自分を横から見たとして左手の位置から20度〜30後方へ。肘は肩幅。
振り下ろし。
右足を一歩前に出し振り下ろすのだが、足ではなく切っ先から前に出し、一瞬遅れて足が動き出す。肘が伸びきらない程度に腕を伸ばしていく。寸止めの位置までに手首を返して切っ先を走らせる。腕・切っ先を下ろしていく。左手が正眼の構えの時の位置と同じ位置で収まるように、切っ先は自分の脛を高さまで振り下ろす。振り下ろしきった一瞬後に一歩前に出した右足が地に着く。この時の重心は腰もしくは、中心より少し前。
さて、どうだろうか。ご自身の習っている所との違いはあるだろうか。間違いなく「ある」だろう。
では、どちらか正解か?
どちらも正解でどちらも正解で無い。
殺陣は演技だ。観客に自身の演技を見せる事が前提だ。上記に書いている内容は、殺陣の技術的な基本動作として、先生や講師が、舞台や現場でいかに役立つ動きかを考えた上で、生まれた形でしかない。
とても実用性が無い基本をしている道場もあるようだが、不正解なものはない。
そこには、基本という一つの指標があるだけで、何を見て、何を感じて、どう表現するかは、役者自身の自由だ。とりあえずの正解が欲しい人は、習っている所の基本が正解と認識すれば良いが役者ならば、多くを学んで自身の正解を導くべきだと思う。
だから私も当ブログで、他人の殺陣に好き勝手言っているのだが。。。
人それぞれ身長も腕や足の長さ、骨格も違う、他人の素晴らしい構えは、自分にとっては滑稽な構えかもしれない。
人間誰しも、技術が身につくより、目が肥えるほうが早い。ならばいち早く目を養うべきだ。何が良くて何が悪いかが理解できれば、努力次第で実力もつくのではないだろうか。
どこで習おうと、そこでの基本は正解の内のひとつだと考え、生徒自身がどんな殺陣ができる役者になりたいか、自身が考える基本はどのようなものか。自分自身の基本の形を全ての動作で作り上げるべきだ。姿勢、刀の角度、どこまで振り上げるか、振り下ろすか、歩幅など何度も鏡で自身の恰好を確認する。自身の基本が確立できれば、あとは芝居に合わせて基本をどのように崩して表現するかだ。
正解の内のひとつである「基本」を礎に、立派な城を築いて欲しい。
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